Ultimate 1月31日号

YUI Aoki B.A.S.S. OPEN Debut match

青木 唯

「日本でプロとして食べていけるかもしれない......、いつの間にかそんなぬるい考えを持っていることに気づいたとき、自分をたたき直すためにもう一度ギリギリまで行くと、アメリカで戦うと、決めました」

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「自分をたたき直すために、ギリギリまで行く」

 レイク・オキチョビでのB.A.S.S.オープン開幕戦を1週間後に控え、青木唯にあらためて米国挑戦の動機を尋ねた。「自分をたたき直す」、そして「失敗したときの恐怖を肌で感じられる環境と試合に、常に身を置かなければ自分は終わってしまう」というのが答えだった。

 青木唯が、趣味だったバスフィッシングで生計を立てると決めたのは高校3年時。18歳の彼は、プロを目指す同世代のなかで大きく出遅れた存在でしかなかった。船舶免許もボートもない、運転免許も車もない、魚探の活かし方どころか基礎的な見方さえ知らなかったのである。

 しかし青木唯はその後、わずか3年でNBC初優勝、4年でJBマスターズ初優勝、そして5年でTOP50初優勝と日本のトーナメントステージを一気に駆け上がり、20172023年の7シーズンでJB10勝、ジャパンスーパーバスクラシック制覇、日本バスプロ選手権優勝、NBC30勝と、勝利とタイトルを山の如くうずたかく積み上げた。

 ところが、こうして「プロとして生計を立てる」という目標が達せられたとき、青木唯が抱いたのは「恐怖」だった。

「いつの間にか、自分がぬるくなっていることに気づきました。僕は、自分の成長に恐怖が必要なんです。深刻な話になってしまうので詳しくは言えませんけれど、バスプロになると決めてから、自分を追い込むためにいろいろなものを捨てたり、賭けたりしてやってきました。バスプロになりたい人はみんな練習します。けれど、練習して成功することに希望を持つだけでは、僕の場合は足りない。冷静に、失敗したときを想像して絶望や怖さを実感する、そういう環境こそが自分には必要なのに、気づいたらぬるい場所でぬるい考えでプロを続けようとしていました。自分をたたき直すために、もう一度ギリギリまで行く必要がある。初めてアメリカの試合に出たいと思いました」

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パスポートの紛失・再発行、

バスボートでガス欠・漂流

 かねてよりアメリカでプロになる未来をイメージしていたわけではなかった。

「フィッシングカレッジ時代に台湾へ行ったときパスポートを作っていました。けれど、もう二度と海外へ行くことはないだろうと思っていたので管理が雑だったというか......、たぶん引っ越したときだと思うんですけどなくしちゃっていたので、まずは再発行手続きからのスタートでした。まぁ、それくらいアメリカなんて頭になかったということですね」

 昨年末(202312月)の人生初渡米から1ヵ月で参戦環境を整えるなかで、初めて海外で車のハンドルを握り、広大なレイク・オキチョビで人生初のガス欠と人生初の夜の漂流を経験した。

「琵琶湖よりでかい湖(※約3倍)で夜に漂流するとか、真っ暗な湖面のそこらじゅうからワニの気配がするとか、そういうのは要らないキョウフなんですけど(笑)、まぁ死にはしない、何とかなるだろうと思ってました。もちろん焦ったは焦ったし、コワかったし、ヘルプを求めた方に迷惑もかけてしまいましたが、そうしてトラブっている自分をどこか面白がっている自分もいました」

 

"青木唯にしかできない釣り"で勝負する

 米南部フロリダに位置する「ビッグO」ことレイク・オキチョビといえば、視界の端に映るのは水平線か、ベジテーションに縁取られた地平線かのいずれかだ。広さの割に極めて浅いためフロッグやバズベイトが幅を利かせ、これらのルアーが試合で勝ちに絡むこともある。

「フロッグとか楽しいんだろうなァ、とは思います。バズやチャターも投げたいですね。でも今は、そういう釣りをする時間も意味もない。僕の試合には関係がない釣りなので"そういうタックル"をボートに積まずにスタートを迎えたいです。現実的にはストレージには入れておくと思うんですけど、試合中にフロッグやバズを投げることになったらその時点で負け確定。シャローでアメリカ人選手と張り合って勝てるはずがないし、わざわざアメリカに来てシャローをやるなら、べつに青木唯じゃなくていい。数は少なくていいからオフショアにでかい魚を見つけて、それを毎日、確実に5尾釣って、勝つ。それだけを9試合(オープン全試合)やり抜きます。

 自分にとって今シーズンの鬼門は、このオキチョビと、サンティークーパー(第3戦)、そしてミシシッピリバー(第8戦)、外す可能性があるとしたらこの3つだと考えています。目標は、オープン年間総合9位以内に入って、来年(2025年)のELITEシリーズ出場権を獲ること。鬼門の3戦以外はすべてトップ10に入ることと、そのうちひとつは勝つこと。できれば複数回、勝ちたいです」

 青木唯は今年で25歳になる。世間的には充分若くとも、昨年のオープンを勝ち上がって今シーズンからELITEに参戦するルーキーたちと比べると、若いとは言えない(同世代が中心で10代もいる)。言葉の壁、地の利、文化の違いや経済面など、現在の青木が背負っているディスアドバンテージは、高3のころと同等か、あるいはそれ以上とさえ言える。

 今からちょうど24時間後の日本時間21日(木曜)21時、青木唯が自ら望んだギリギリのB.A.S.S.オープン2024シーズンが開幕する。

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