Ultimate 9月27日臨時号 【藤田京弥B.A.S.S.オープン参戦記】

Vol.5 B.A.S.S.オープン・ノーザン地区第3戦/チェサピークベイ編

藤田京弥

初渡米からわずか半年! 来期B.A.S.S.エリート行きのチケットを獲得!!

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 藤田京弥プロの2023B.A.S.S.エリート昇格が決定した! 日本人アングラーでは過去に1人しか例のないアメリカ参戦初年度でのエリートシリーズ出場資格獲得である! 国内ツアーで「若き天才」の称号を欲しいままにした藤田プロは来期2023年、B.A.S.S.トップエンドのエリートシリーズに初出場を果たす!

 

オープン初年度で破竹の快進撃!

 

 今期2022年の藤田京弥プロは国内最高峰JBトップ50と並行して、アメリカB.A.S.S.オープンシリーズに参戦していた。これまでJB引退後に米国ツアーに参戦した日本人アングラーは少なくないが、その両方を掛け持ち参戦した例は極めて少ない。むろん藤田プロにとって米国ツアー出場は今期が初めてであり、それどころか北米大陸の地を踏むこと自体初めてだった。まさに文字通りの初挑戦であったわけだが、その未経験の地で藤田プロは名だたるアメリカ人プロアングラーたちを相手に破竹の快進撃を見せた。

 今年4月、米国東部ヴァージニア州ジェームズリバーで開催されたノーザン地区オープン初戦でいきなり決勝進出を決め、見事10位入賞(出場者数225名)を果たした藤田プロは、その後7月のニューヨーク州オナイダレイクでのノーザン地区第2戦でも16位の好成績でフィニッシュ。9月の最終戦を前にしてノーザン地区オープンのポイントランキングで3位に着けるというアメリカ初挑戦とは思えぬ天才ぶりを証明してみせた。これがどれほどの意味を持つのかまずは簡単に説明しよう。

 

オープンからエリート昇格の困難さ

 

 B.A.S.S.のプロトーナメントはフラッグシップのエリートシリーズと下部リーグに当たるオープンシリーズの二段構造になっている。エリートに出場するには、まず下部リーグのオープンに参戦し、規定の要件を満たさねばならない。オープンはノーザン、サザン、セントラルの3地区に分かれており、各地区で全3戦が行われる。出場者数はボーターだけでも各地区220250名。屈指の大規模戦だが、特筆すべきはその顔ぶれである。

 ここ数年のB.A.S.S.オープンはエリート昇格を狙うプロ志向のアングラーが集結する熾烈なツアーとなっており、地の利のある地元ガイドらに加えて、20代前半の学生チャンピオンなどの若手からMLF現役選手といったベテランまで多彩な強豪が顔を揃える。出場者数の多さと分厚い選手層、これこそが今のオープンをかつてないほど苛烈なツアーにしている理由だ。

 そして、これほど競争が激しい戦いの中で全3戦を勝ち抜き、来期エリートに新たに昇格できるのはわずか12名にすぎない。オープン各地区の年間ポイントランキング上位3名(計9名)と、3地区総合ランキングの上位3名である。過酷なオープンでランキング上位3位以内でフィニッシュすることはアメリカ人アングラーでさえ容易ではないが、まして初めて渡米する日本人アングラーとなればほとんど達成不可能に近い無謀な目標と言ってもいい。

 がしかし、ノーザン地区第2戦を終えた時点で藤田プロはそのランキング3位というポジションに着け、来期エリートを射程に捉えた。9月の最終戦次第で来期エリートの出場資格をモノにしうる絶好のチャンスを迎えていたのである。

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地の利があるローカルガイドから、藤田プロよりも年少のB.A.S.S.叩き上げの若手、果てはMLFに代表される他団体のトッププロまでがエリート昇格を狙って参戦する。それが現在のオープンシリーズだ

 

ノーザン最終戦は米国東部を代表する巨大タイダルウォーター

 

 ノーザン地区オープン第3戦(最終戦)の舞台は米国東海岸で大西洋に注ぐチェサピークベイ(湾)だった。全長が300kmにも及ぶ巨大タイダルウォーター(汽水域)だが、競技水域となったのは上流側約半分に相当するメリーランド州内の水域だ。それでも会場が置かれた湾の最奥から最下流までの距離は170km(東京から長野市に相当)を超える広大さ。むろん日本国内にこれほど巨大な水域は存在せず、藤田プロがこれまで釣った最大規模のフィールドでもあった。

 ソフトシェルクラブの名産地でもあり、上流部まで潮の干満差が発生するチェサピークベイが実はラージマウスバスの生息域でもあることは意外に知られていない。湾の最奥に注ぐサスケハナリバーをはじめ、複数の川が豊富な淡水を供給しているためで、サスケハナリバー内ではスモールマウスバスさえ生息する。試合で狙えるラージマウスは最大で6Lb(≒2700g)まで。他方スモールマウスは3Lb(≒1400g)が上限。過去戦のデータでは単日1314Lb59006300g)が上位進出に必要と考えられたが、夏季の高水温を受け、よりタフ化するのではないかともされた。

 そんな中でプラクティスから船団が形成され銀座と化していたのが、チェサピーク随一の広大なグラスフラットが広がるサスケハナリバーの河口部。会場から距離的にも近いサスケハナフラットは過去戦でもコミュニティーホールとなっている人気エリアだが、近場で実釣時間を最大化できるメリットもあり、最終戦でリスクを避けたい選手たちに好まれやすい条件を備えていた。第2戦を終えてランキング3位に着け、大ハズシだけは避けたかったはずの藤田プロだが、実はこのサスケハナフラットはプラクティスの時点ですでに見切っていた。

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試合2日前に一日中降り続いた豪雨、その影響が出ることを静かに覚悟しながら、余念なくタックルの準備を進めた

プラクティスでの手応えから一転......

 

藤田「プラクティスの前半は本当に釣れても23尾って感じで、しかも1Lb(≒453g)とか2Lb(≒900g)の魚しか釣れなかったんですよ。最初はサスケハナリバーとか、その出口のグラスフラットとか見てて、グラスの釣りをしてました。でもラージのデカいのが全然釣れなくて。で、プラクティス後半で大きくエリア変えて下流の流入河川をやりだしてから世界が変わった。やや深めのウッドカバーにバスが着いてることに気づいてからは各リバーで釣れました。最後のほうは、このカバーは釣れそうだなって思って入ると1投で釣れるくらいまで仕上がった。サイズも最大5Lb(≒2300g)まで釣ってたので、結構イケるかな、と。

 釣り方はリーダーレス・ダウンショット、バリバリ日本の釣りです(笑)。10gシンカーを使ってたので、まぁテキサスリグみたいなノリなんですが、このほうがワームの姿勢がいいし、カバーに入りやすかった。ズンと入れると着底した瞬間にくるって感じ。で、バイトなければ、スーッと上げてきた時に水面でギランと食ってきたりとかもありましたね」

 しかし、そうしたプラクティスでの好感触とは裏腹に、試合1日目の藤田プロは苦戦を強いられた。0尾のまま朝の3時間が過ぎ去り、その後4尾をキャッチしたもののサイズは12Lb止まり。期待した5パウンダーは気配すらなく、それどころかリミットすら揃わない可能性までありえた。

藤田「試合の2日前に豪雨が降ったんです。もう超ありえない豪雨が一日中降って、これは濁るかもなって。その次の日のプラ最終日も雨だったんですが、最後に川を見に行った時はまだ濁ってなかった。ところが、試合1日目の朝に行ったら、もう超ドチャ濁り。水温も一気に落ちて、水が完全に入れ替わってた。

 ヤバイなと思いつつ、プラで反応があったとこだけ回ったんですけど、全然! もうホントにノーバイトで、最後の最後もう出ようかって思った時に1本、2Lb弱くらいのを釣ったけど、体色が白いし、触ると冷たいんですよ。あぁもうコレ終わってるって(苦笑)。これは大きい流入河川ほど水が入れ替わってると思ったので、ワンドみたいになってるブッシュリバーまで走りました。そしたら思ったとおりまだ濁ってなくて、そこから1時間で3本釣りました。でも撃つべきカバーが限られてたので、もう1周しましたが、結局ダメでしたね。

 そこからプラで数が一番釣れた川に行ったんですが、そこもルアーを12cm沈めたら見えなくなるくらい濁ってて(苦笑)。1日目は帰着が1720分だったので、その後もいろいろ試したんですが、リミット揃ってないし、いよいよヤバくなってきて、どうしようかなって。で、地図を見てる時にサッサフラスリバーのひとつ下に小さいクリークっていうか野池みたいになってるところがあって、ここなら濁ってないかもと。翌日のためにも新しいとこ見といたほうがいいなと思って行ったら、濁ってなかった。水温も普通の状態。で、最後30分で2連発してリミット! うち1本が4Lb近い魚だったので、入れ替えて帰着しました」

 1日目の藤田プロは11Lb14oz22位。上位7名は15Lbを超えていたが、179名のうち135名がリミットメイクに失敗するというなかなかのサバイバル戦となった。この日、苦戦からのアジャストでキャッチした11Lb14ozは当初藤田プロが期待していたウエイトには程遠いものではあったが、22位という好位置からのスタートは来期エリート出場に向けて藤田プロを大きく一歩前進させた。

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2日目午後の閃き

 

 2023年エリート昇格にいよいよリーチをかけた藤田プロだったが、2日目は正午までノーフィッシュという前日を上回る厳しい展開が待っていた。

藤田「1日目の最後に入った小さいクリーク、あそこで4Lbの魚が出るなら、次の日はもうそこだけでいいかなと思って、2日目はそこから始めました。ところが、朝イチはタイドが悪くて満水。2日目のタイドは12時頃からがよくなるのは分かってたんですけど、やっぱりノーバイトで(苦笑)。2日目は帰着が14時半と早かったので、ロングランすると釣りする時間がなくなってしまう。釣り自体をハイスピードでやらないとヤバイなと思ってました。

 で、次に1日目に3連発したブッシュリバーへ行ったんですが、ついにそこにも濁りが入ってて、もう完全ノーバイト。速攻で見切って、朝の小さいクリークに戻りました。結局、濁ってない場所はもうそこしかなかったので。でも、まだタイドが高くて、初めは全然ダメでした。11時半くらいにやっと1バイト目が来たんですけど、水中の木に引っ掛かってバラしちゃいました。もう掛かった瞬間に木に巻かれちゃってて、近づいたら魚体がギラギラしてるのが見えたので獲ろうとしたら外れて。あぁ~やっちゃったなと。2Lbくらいの魚でした......」

 この痛恨のバラシが1125分。ライブウェルは依然「空」のまま、帰着時刻はわずか3時間後に迫っていた。

藤田「移動時間とかを引くと、残り実質2時間くらいしかなかったんですけど、ちょうどそこからやっと水が流れ始めた。1日目によかったスポットを重点的に撃ってノーバイトだったので、逆に手を付けてない場所だけを撃ってみたら、そこから15分に1本のハイペースで釣れていって。最後は1本釣った同じカバーに入り直して4Lb近いのを釣ってリミットでした。5本ピッタリ(笑)。タイドが利いてきて、イイ場所が限られてきていた中で、流れとカバーを見てよさそうなとこだけハイテンポで撃っていったのがよかったって感じでした。プラで全部のクリークを見て回って地形とか特徴を覚えてたのでそれが活きました。今までの試合経験から、時間が短い時は判断を早くしないとダメだということが身に沁みているので」

 2日目の藤田プロがキャッチしたキーパーはちょうど5尾。ウエイトは1日目を下回る10Lb2ozであったが、前日上位勢の失速が目立つ中で藤田プロは相対的に順位を上げ、12位でフィニッシュした。その後、上位選手の失格があり、ひとつ繰り上げとなって最終11位。惜しくも決勝進出は逃したものの、1日目22位からさらに順位を上げたことでポイントランキングは2位に浮上。ランキング上位3名に付与される来期エリート昇格がこの時ついに決定した。藤田京弥プロの2023年エリート出場が決定した瞬間である。

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00.JPG藤田「昇格に関しては、2日目5Lb釣れば何とかイケるんじゃないかって実は計算していたので、3本釣った時点でずいぶん気が楽になりました。ただ、それまではホントにシンドかったです。なにせ午前中ずっとノーフィッシュで、残り2時間しかなかったので(苦笑)。さすがに2日目ノーフィッシュでは昇格は無理ですから」

2023年エリートへ向けて

 藤田プロのノーザン地区オープンは第110位、第216位、第311位というアメリカ初参戦とはにわかには信じがたい好成績が並ぶ。ここで特筆すべきはそれら3戦の開催地である。第1戦ジェームズリバーは典型的なタイダルリバーでのシャロー戦。第2戦オナイダはクリア系ナチュラルレイクでのスモールマウス戦。そしてチェサピークベイでの第3戦が巨大タイダルウォーターでのタフなサマー戦。

 このうちノーザンオープンらしいスモールマウス戦は第2戦のオナイダのみで、他2試合はいずれもタイダルでのシャロー戦という、控えめに言っても日本人向きとは言えないフィールドが舞台だった。それらタイダル戦で10位、11位という好成績を藤田プロがあげたことに驚いた方も多かったのではないか。筆者も同じだ。スモールマウス戦での上位進出は想定内としても、ジェームズリバーやチェサピークといったシャローカバー戦での好成績は想定外であると同時に、藤田プロの末恐ろしい非凡さを感じさせる。

藤田「アメリカって日本と同じようなとこもあるんですけど、やっぱりアメリカらしさっていうか、自然の変化に対して魚がより敏感だなって感じました。そういう動きを捉える感覚が日本とは違うのかなと。ラージマウスはそこが難しい。ただ、日本の感覚でしか釣れない魚もいると思うので、そこは楽しみです。反対にスモールマウスに関してはオナイダを釣った限り日本と全然変わらなかったですね。

 あと、アメリカは天気が荒れることも多いし、頑張んなきゃいけないことのほうが多いのでキツいです(苦笑)。でも、いつも最初はまったく(エリアや釣り方が)見えないんですが、やり込んでいくうちに段々と解明していくのは面白い。今回の試合もそうで、チェサピークベイってとてつもなく広いのに、ウッドパターンが見えてからはめちゃくちゃ小さく感じたんですよ。そうなった瞬間がやっぱり楽しいッスね! 逆に場所さえ知ってればイケるかもしれないとも感じました。魚の状態自体は日本のほうがシビアなので、見つけさえすれば食わせる自信はあります」

 オープン参戦初年度にして、しかもわずか4戦に出場しての最速エリート昇格を決めた2022年の藤田プロ。この飄々とした自信を裏付けているものがいったい何なのかを、我々は来期エリートシリーズで目の当たりにするのかもしれない。

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