Ultimate3/27臨時号 藤田京弥B.A.S.S. ELITE参戦記

鬼門「フロリダ」での開幕戦

1戦フロリダ州レイク・オキチョビ(2/16-19)

text by Kentaro Amagai

photographs by Seigo Saito

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 藤田京弥がルーキー(初年度の新人)として参戦するB.A.S.S.エリートがついに開幕した。

 2023年エリートは2月から8月までの7ヵ月間に全9戦が予定されているが、そのうちの第1戦と第2戦が2週に渡る連戦という形で去る2月下旬に開催された。今回はフロリダ州レイク・オキチョビで行なわれた開幕戦での藤田の戦いをレポートしよう。

 

オキチョビはどんな湖?

 

 エリート開幕戦の舞台となったオキチョビはフロリダ州南部の亜熱帯域に位置する湧き水を水源とする自然湖だ。

 山地のないフロリダ半島だが、地下の帯水層には大量の地下水が存在しており、それが各地で湧出し、無数の湖や川を形成している。レイク・オキチョビはフロリダ中央部に点在する有名な湖沼群キシミーチェーン・オブ・レイクスから流れ出た川が半島南部で面積1900㎢(琵琶湖の2.8倍)に及ぶ巨大な湖となったもの。「Okeechobee」とはかつてこの地に定住していたネイティブインディアン、セミノール族の言葉で「大きな水」の意味を持つ。

 そのオキチョビは広大さの割に水深は浅く、最深部でも4~5mほどしかない。湖岸線から5~10kmも離れた沖合まで水深50cm~2mという遠浅のシャローが続いており、その大部分には多種多様のベジテーションが大繁茂している。イメージ的には夏の印旛沼を超巨大化して、さらに浮き藻やアシ原を大増量した感じと言えば当たらずと言えども遠からず。

 試合が開催された2月中下旬のオキチョビはバスの産卵盛期と重なるが、亜熱帯域であるフロリダ南部でのスポーニングは11~5月の長期に渡って断続的なウェーブが何度も繰り返し発生するのが普通。そのため、2月だからといって必ずスポーニングがあるとは限らない。すべてはその時の天気次第である。

 釣果的には、もしも北からの寒波が襲来すれば、1日12Lbリミット(5尾計5.4kg)が上出来なほどタフ化するし、反対に気温が25℃を超えて水温が上昇すれば、ベジテーション帯奥のシャローに一気にスポーニングフィッシュが差し、1日30Lb(5尾計13.6kg)超のリミットが出ることもある。

※1Lb453

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2月15日

開幕戦の試合前日

 

 オキチョビ戦開幕の前日、藤田は公式プラクティスの手応えを次のように語っていた。

藤田「一発切られたんですけど、あれはデカかったと思います。実際に釣ったのは4ポンドくらい。15Lb平均(2日間で計30Lb)で準決勝行けると思うので、それが今回の目標です。最初はオキチョビって釣れないイメージだったんで、どうなることかと思ってたんスけど(笑)、プラを進めていくうちに、去年のチェサピーク戦みたいにだんだん湖が小さく感じてきた。魚の濃いエリアを見つけれたので、今はすごく楽しみ。人が密集してるとこなんですが、そこはやたら数も釣れるし、サイズもそれなり。人がいっぱいいても、アメリカの選手が取りこぼしたような魚を日本の釣りで釣れるんじゃないかっていう楽しみがある。初日はまずそこに行こうと思ってます」

 1月のプリプラクティスで湖北端のラウンチサイト周辺から正反対の湖南端まで広範に探索していた藤田は、その時点ですでに一部のシャローでスポーニングネストを確認していた。が、それらネストは直前の公式プラクティスでは空になっていた。

藤田「もう産卵終わってる感じですね。1月にプリプラやった時、何個もネストを確認してる場所に何もいなかった。実際今回のプラで釣った魚もアフターっぽい感じが多かった。今考えてるのは、日本でデカいバスねらう時に使うルアーを投入してみること。メインはプラで良かったマグナムクランクです。水深1mくらいのとこをショートピッチで投げて引いてくる感じ。皆はきっとチャターとかで流すと思うので、それにスレてる魚でもこれなら獲れるはず」

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DAY 1

自己目標ウエイト達成ながら

集団に埋もれた初日

 

 今期B.A.S.S.エリートにルーキーとして臨む藤田にとって、オキチョビでの開幕戦は記念すべきエリート初戦でもあったが、その初戦で藤田は厳しい洗礼を受けた。

 大方の予想に反し、予選ラウンドの2日間は20Lb超のビッグリミットが続出するスラッグフェスト的な展開となった。安定した天気が続く中、気温が急上昇した午後にスポーニングフィッシュの新たなウェーブが発生し、湖西側の分厚いベジテーション帯奥のシャローでこれを待ち構えた選手たちが5~8Lbクラスのメスをフロッグやスイムジグ、あるいはパンチングなどでキャッチしたのだ。

 藤田が初日にウェイインした5本のウエイトは14Lb15oz(≒6,800g)。それは試合前に藤田が宣言していた通りのウエイトではあったが、多くの選手たちがビッグウエイトを持ち込む中で集団に埋没し、初日の順位は50位と出遅れた。

藤田「初日の朝はプラン通り人が密集してた場所へ行ったんですけど、自分が釣れてたとこはなぜか水が悪くなってた。1時間やってノーバイトだったので、別のエリアへ走って、そこで15Lb釣りました。ところが、上位はほとんど朝の場所だったみたいです(苦笑)。自分がやった(ベジテーション帯の)外側は水悪かったんですけど、皆がやってた奥は水キレイだったんすヨ。プラでは外側で釣れたので、実は奥を開拓してなかった。ヒシモばっかで釣りづらいなと思っちゃって......。でも結果的に上位は全員、奥のヒシモ絡みッスね。結局、ねらってるバスが上位と全然違ってました。自分はプラからずっとアフターばっかり釣れてたので、もう完全にアフターなんだと勘違いしてしまった。でも、自分がやってた場所と釣り方がたまたまアフターしか釣れなかっただけで、上位は皆プリだったんです。こんなにデカいバスいたのかって、帰着して初めて知りましたヨ(苦笑)」

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DAY 2

失速した2日目の原因

 

 続く2日目、藤田はリミットこそ揃えたものの、ビッグフィッシュに恵まれず、かろうじて9Lb11ozを追加するに留まった。結果、2日間の予選ラウンドを終えた藤田の成績は79位。50位の予選通過カットラインに約5Lb届かず、エリート初戦を賞金圏外の不本意な成績で終えてしまった......。

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藤田「2日目は初日にデカいのを連発したとこでやったんですけど、全然釣れなくなってて......。そこはプラで見つけた西側のエリアで、プラの時は誰もいなかった。でも初日に行ってみたら、他に2人そこをメインにしてる選手がいました。一人は去年セントローレンス戦で優勝した若い選手(ジェイ・シェクラット)。で、初日入って10分で4連発して、5Lbと3Lb半が釣れた。オオッ!やっぱココは凄いなぁって思って、2日目のために温存したんです。でも、結果的にはそれが間違い。2日目は朝からそこに行って、やっぱり3人で釣ってたんですが、サイズが全然違った。自分だけじゃなくて、他の2人もデカいの釣れてなかった。そんなことなら、初日に温存なんてせずに釣りきっておくべきだったなぁって。そのあたりは完全に戦略ミスでした。近くにいたその若者なんて初日6Lbくらいの釣って、18Lbくらいだったと思うんですヨ。自分も初日の朝からそこで全力で釣ってたら20Lbとか行ってたと思う。〈温存〉なんてエリートにはないんだなって思い知りました」

 たしかに、初日に20Lb台をウェイインできていれば、2日目がたとえ9Lb11ozであっても予選通過カットラインの29Lb12ozを超えていた可能性はあっただろう。予選通過という点だけを見れば、原因は2日目というよりむしろ初日の進め方にあったと言うこともできる。だが、予選通過よりもっと上、たとえば3日目の準決勝通過(10位以内)の可否を考えるなら、どうだろう。問題は別のところにあったと藤田は分析している。

藤田「3人でシェアしたそのエリアにしても、今回の上位が釣ってたヒシモのエリアと比べたら全然ポテンシャルがなかったと思うんです。なので、3日間の公式プラで自分がそこを開拓できなかったことがそもそもの敗因だった。プラの時、エリアの外側でたくさん釣れたので、奥は試合で釣りこめばいいかと思ってそこで止めちゃった。他を見なくちゃいけなかったので、外側だけで奥は開拓しなかったんです。フィールドのことを知らなすぎだったと反省してます」

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フロリダという鬼門

 

 今回のオキチョビを含めて、フロリダのフィールドと日本人アングラーは伝統的に相性が悪い。

 フロリダのように地形変化が乏しく、皿池状で水深が極端に浅く、しかも多種多様な水生植物群が密生するフィールドが日本に存在していないことが一番の理由だ。厄介なのは釣り場だけではない。フロリダで対象魚となるのは言うまでもなくフロリダバスだが、これは各地に移入され、その環境に順応したフロリダ種ではない。亜熱帯気候であるにもかかわらず寒暖の差が激しく、その変化に対して敏感すぎるほど極端に反応する純血のフロリダバスである。

 どれほど才能に溢れ、日本での経験を十二分に積んでいても、アメリカ参戦間もない日本人アングラーがフロリダ戦でアメリカ人選手たちを凌ぐ結果を出すことは難しい。今回のオキチョビ戦での藤田の79位は、エリートに参戦する4名の日本人アングラーの中で木村建太(70位)に次ぐ2番目の成績だった。ここはオキチョビ戦を攻略できなかったことを悔いるより、初年度エリート開幕戦で起こりえたかもしれない最悪の結果、すなわち大ハズシによる最下位からのスタートを回避できたことを喜ぶべきところだと筆者は考える。今期エリートはまだ始まったばかりである。

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