Ultimate4/6臨時号 藤田京弥B.A.S.S. ELITE参戦記

初年度2戦目で準優勝!

2戦ジョージア州レイク・セミノール(2/23-26

text by Kentaro Amagai

photographs by Seigo Saito

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 今期B.A.S.S.エリートシリーズにルーキー(新人)として参戦する藤田京弥の開幕戦は残念ながら79位という不本意な成績に終わった。予選通過の50位が賞金圏(1万ドル)のボトムラインにもなっているエリートにおいて、79位は明らかな敗戦と言わざるをえないわけだが、しかし、この開幕戦の翌週に行なわれた第2戦では一転、藤田は大会最大魚となった8Lboz3,800g)を含む5尾計23Lb6oz(≒10kg)を3日目にキャッチ。見事に決勝進出を決めて最終2位でフィニッシュした。エリート初年度2戦目での準優勝という誰も予想さえしなかった快挙をあっさり成し遂げてみせたルーキーの登場に、我々メディアばかりか米国のファンまでも大いに驚かされた。今回はジョージア州レイク・セミノールで開催されたそのエリート第2戦の戦いをレポートしよう。

レイク・セミノールの特殊性

 今期エリート第2戦の舞台となったレイク・セミノールは、米国南部ジョージア州南西部とフロリダ州北部の州境に位置する面積151㎢(霞ヶ浦とほぼ同じ)の低地リザーバーである。ハイドリラ(クロ藻)を主とするグラスの豊富さとテキサス東部を思わせる立木の多さで知られるセミノールの本質はしかし、そうした目に見える表面的な特徴にあるわけではない。

 セミノールというフィールドを最も特徴づけているもの、それは生息するバスがフロリダ種であることと、寒暖差の激しい大陸性気候の影響をまともに受ける立地にあることだ。非フロリダ的環境に移入されたフロリダバスの気難しさと言うこともできる。

 フロリダバス本来の分布域であるフロリダ半島は周囲に暖流が流れる温暖な土地であり、そこに生息するバスもまた暖かな気候を好むが、フロリダ半島の付け根よりさらに北部(内陸側)に位置するレイク・セミノールはそうしたフロリダ的な暖かさとは対照的な地理的特徴を持つ。

 具体的には北極圏から流れ込む極北気流(Polar Jet Stream)の影響、すなわち北米大陸独特の急激な寒波に晒されやすく、天候が安定しない。ただでさえ天気や気圧変化に敏感なフロリダバスにとって、セミノールのこうした不安定な環境は極めて過酷だ。結果、セミノールのバスは1年の大半を「ディープ」という隠れ蓑(フロリダの自然湖と異なり、セミノールには20ft≒6m以深のディープが存在する)の下で過ごし、スポーニング時のみ慎重にタイミングを選んでシャローに姿を見せる。

 ここで重要なのは、セミノールのスポーニングは2月から4月にかけての約3ヵ月間に複数回のウェーブという形をとること。今回エリート戦が開催された2月最終週は折からの気温上昇を受けてスポーニングの第一波と重なり、シャローにはそれなりの数のバスが入ったが、すべてのバスがシャローに差したかといえばそうではなく、大多数のバスは依然としてディープで次(かその次)のウェーブに向けたプリスポーンの状態にあった。地元出身でセミノールをよく知るエリート出場選手、ドリュー・クックが今回の状況を指して「偽りの春」と呼んだのも、そうしたスポーンとプリスポーンが混在するトリッキーさを踏まえたものだった。

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DAY 1

苦戦からのアジャスト

 かくして試合はネスト(産卵床)勢とディープ勢、そしてその中間のステージングフィッシュをねらう3つのグループに大きく割れたが、試合初日に上位を占めたのは水深3~6ftのグラスエリアでブレーデッドジグやスイムジグによるステージングフィッシュを狙った選手たちだった。21Lb13ozのトップウエイトを釣って初日をリードしたウィル・デイビスも、21Lb6ozで2位に入ったオーストラリア人選手カール・ジョーカムスンもグラスでのスイムジグがメインパターン。

 そんな中、目一杯シャローに舵を切った藤田は初日16Lb12oz(≒7,600g)をキャッチして19位からの好スタートを切ったが、実を言うと公式プラクティスまでは苦戦していた。期待していたディープの魚を見失い、バックアップとして考えていたシャローのネストパターンに頼らざるをえない状況に追い込まれていたからである。がしかし、藤田はそこから見事なアジャストを成功させた。

藤田「いやぁ~ネスト以外に見つからなくて(苦笑)。プリプラの時は水深8mくらいにある立木とかディープで釣れてたんです。サイズも4ポンド(≒1,800g)とか。でもプラ初日にやってみたら、魚が2ポンドクラスに変わってた。で、プラ2日目からはシャローのネストに切り替えたんですが、シャロー見てる時にネスト以外にウロウロしてる魚がいるのに気づいて、そういうのも同時に狙っていきました。初日に釣った58cm(6Lb弱)とかもアフタースポーンの浮いてた魚で、初日はそういうのが3尾釣れたのでウエイトが結構伸びた。他はネストだったんですが、意外とネストの魚は食わなくて(苦笑)。初日は早い時間にデカイの釣れたので、大きくないネストの魚は全部残しました」

 藤田が言うところの「ウロウロしてる魚」や「アフターで浮いてる魚」はアメリカでは俗に「クルーザー(cruiser)」ないし「ローマー(roamer)」と呼ばれる状態のバスである。こうしたいわゆる「見えバス」は知っての通り日本では重要なキーフィッシュと考えられているが、他方アメリカでは、神経質で釣りにくくパターンとして成立しにくいため、試合でこれのみを追う選手はいない。もし何かの拍子に釣れたとしても、単なるラッキーフィッシュとして片付けられるのが常だ。

 昨年までJB戦を戦い、見えバス攻略を当たり前のように行なってきた藤田にとって、シャローのローマーはまさに「据え膳」だったわけだが、エリートにおいてそれは誰も狙わないニッチの魚でもあった。シャローでネストを狙う選手はたしかに多かったが、神経質な見えバスをあえて狙う者など誰もいなかったのである。

 実際、藤田が初日からメインエリアとしていたバックウォーターポンド(メインレイクと水路によって接続する複数の池)では、ジェラルド・スウィンドルなどネストをねらう複数の選手たちとバッティングしていたが、藤田のように見えバスを狙う者は誰一人おらず、藤田は完全フリーの状態で釣ることができた。すなわち、エリアがモロ被りしているにもかかわらず、藤田にしか釣れない魚がいる状態。言うまでもなく、これは最強である。今回、エリート2戦目の藤田が2位という好成績でフィニッシュした要因はいくつかあるが、そのうちのひとつがニッチな見えバス攻略であったのは間違いない。

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DAY 2

20位で予選通過!

 試合2日目は初日の上位勢が失速する中で、メインレイク下流部ディープでプリスポーンを狙ったジョーイ・シフエンテスが26Lb1oz(最終的に大会最重量となった)のビッグリミットを持ち込んで首位に立った。シフエンテスが釣っていたディープティンバー(立木)帯は同時期に行なわれた過去戦でも何度も上位のキーエリアとなってきた場所だが、ここから優勝が出たことは一度もない。過去のセミノール戦はいずれも2~3月のスポーニング期に開催されてきたため、シャローのネストパターンやステージングパターンのほうが爆発力という点で勝っていたからである。

 しかし、今回の試合はこれまでとひとつ大きく違う点があった。それは前方ライブソナーの普及である。今回はライブスコープ等の前方ライブソナーが普及して初めて開催されるセミノール戦だった。

 シフエンテスの釣りは水深20ft超のディープティンパーにサスペンドしたプリスポーンをドロップショットによるシューティングでねらうというフィネス系。その精度と効率がライブソナーの使用によって大きく向上するのは明らかだった。過去戦においてこのディープティンバーパターンが優勝にあと一歩届かなかったのは事実だが、ライブソナーの登場によって前提条件は根本から覆された。シフエンテスが2日目に釣った26Lb1ozはそのことを如実に示しているように見えた。

 一方、2日目の藤田は初日同様バックウォーターポンドでの見えバス攻略とネストパターンを併用する戦略を実行。初日とほぼ同じ16Lb5ozのリミットを持ち帰り、計33Lb1oz20位で予選通過に成功した。最終日の決勝ラウンドに進出するには、3日目の準決勝で10位以内まで順位を上げなければならない状況だったが、その10位とのウエイト差はわずか2Lb弱。3日目の追い上げ次第で充分に捲れる距離感だった。

藤田「今日(2日目)はネストが増えてましたね。でも、3ポンドから上のバスは少ない感じ。今日も小さいのは釣らずにそのまま残してきました。今日もGメン(ジェラルド・スウィンドル)がいましたけど(苦笑)、彼がやってた奥にはネストがあって、自分がやってる手前はウィードジャングルでネストはないんです。ただフラフラ浮いてる魚がいて、自分はそれを狙ってます。初日に釣った58cmも、今日朝イチに釣った4パウンダーもサイコロラバーのサイトで釣りました。明日(準決勝)も同じバックウォーターポンド内でやりきります。まず朝はウロウロしてる魚から始めて、その釣れ方次第でネストって感じ。やっぱ朝っスね重要なのは」

DAY 3 SEMI-FINAL

大会最大魚8Lb6ozキャッチ! 4位浮上で初ファイナル!

 2日目までと同様にメインレイク下流のバックウォーターポンドからスタートした準決勝ラウンドの藤田は開始4時間で推定22Lb超のリミットをキャッチ、暫定3位に浮上する快進撃を見せた。

 ウエイトを大きく押し上げたのは最終的に今大会の最大魚として記録された8Lbozのキッカーだ。この1尾はサイコロラバーではなく、ブルフラットのライトテキサスで釣ったものだが、これまた常人には真似のできない藤田独自のメソッドがカギとなった(詳細はシークレット)。

 3日目の準決勝に藤田が持ち込んだ公式ウエイトは23Lb6oz。3日間の合計で56Lb7ozとした藤田は前日20位から一気に4位へとジャンプアップに成功し、エリート初年度2戦目にして早くも自己初の決勝ラウンド進出を決めた。

 20代前半にして日本のタイトルを総ナメにした藤田京弥に対する米国メディアの注目度は今期開幕前からそれなりに高かった。が、そこにはやはり「でもアメリカではどうなの?」という疑問符が付いていたのも事実だ。実際に結果を出すまで、「いくら日本で強くても、米国ツアーでは通用しないんじゃない?」という見方をされてしまうのはある意味仕方のないことだが、この3日目を境に現場の空気は明らかに変わった。アメリカ人選手たちが占拠するバックウォーターシャローで、8Lb6ozのキッカーを含む計23Lb6ozをキャッチした歴然たる現実が彼らの見方を変えたのだ。それはまさに単に「日本で実績があるルーキー」から「real one(本物)」へとアメリカ人たちの見方が変わった瞬間でもあったが、その変化はB.A.S.S.公式ライブカメラが藤田に同船した翌日の決勝ラウンドで全米規模へと広がった。

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Day 4 FINAL

怒涛の追い上げで準優勝!

 決勝ラウンドを前にした首位シフエンテスと4位藤田との差は10Lb4oz。シフエンテスが自滅しない限り、自力での藤田の逆転は不可能な大差が開いていた。藤田としてはセミノール戦のマックスウエイト(25Lb前後)を叩き出して後はシフエンテスの釣果を待つのみという状況。

 その藤田は開始早々に4パウンダーをキャッチ。目標の25Lbへ向けて幸先の良いスタートを切った。エリアは初日からメインにしてきた下流のバックウォーターポンドの一画だが、一面がハイドリラで覆われた水深2~3ft(≒6090cm)フラットにこの日浮いたのは藤田だけだった。ここを釣っていたスウィンドルをはじめとする他選手は全員、準決勝までに姿を消していたからである。B.A.S.S.公式ライブのコメンテーター、マーク・ゾナは「ここはベッド(ネスト)のサイトパターンで有名なエリアで混み合ってましたが、藤田は他の選手に釣り勝ちました」と藤田を称賛した。

 が、そのゾナでさえ、この後の藤田の怒涛は予想していなかっただろう。開始から約2時間後にはバストラック(B.A.S.S.の非公式スコアボード)上で「7Lb」と表示されたビッグフィッシュ(実際は5Lb半)をキャッチ。ライブ解説のデイビー・ハイト(クラシック優勝と2回のAOY獲得を持つレジェンド)をして「信じられない!」とまで言わしめた。シフエンテスが痛恨のバラシを連発し、10時半まで3時間に渡るノーフィッシュに苦しむ中、快調にビッグフィッシュを釣り重ねる藤田はバストラック上でシフエンテスに僅差まで詰め寄る場面すらあったが、最終的には正午前からシフエンテスにバイトが集中。藤田の19Lb15ozに対して、シフエテンスが18Lb7ozを釣って逃げ切り、藤田は2位、準優勝という結果で試合が終了した。

 終わってみれば、両者のエリアのポテンシャルにそもそも大きな差があったのは明らかだが、圧倒的なスキルの高さでその埋めがたいハンデをカバーし、連日に渡ってビッグフィッシュを連発した藤田の非凡さが際立った試合だった。エリート初年度、2戦目にしての準優勝が決して偶然でないことはこの後シーズン中盤以降のエリート戦で再度証明されることになるだろう。

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RECAP

第2戦セミノールを振り返る

藤田:準優勝できてよかったッス。プラの時点では準決勝(Day3)残るのが目標でしたから。プラでは3Lbくらいのをネストで見つけてたんで、予選2日間は毎日15Lbずつ釣ってくれば何とか残れるかなぁって思ってました。

雨貝:試合ではアメリカ人選手、特にジェラルド・スウィンドルとバッティングしてましたね。

藤田:エリアは同じだったんですが、「Gメン」はネストに集中してましたね。本湖から入ってすぐの池状のワンドがウィードベッドになってて、ポコポコ開いてる穴にネストがあったんです。でもその魚は初日のうちにGメンと自分で抜ききった。ところが、2日目の朝になると、新しいベッドが増えてて、Gメンも朝は連発してました。でも3日目になると、新しいネストは1個も増えてなかった。たぶんGメンはあのワンドの中ではノーフィッシュだったんじゃないかと。自分が2日目から狙った魚はネストにそれほど執着してない中途半端な状態の魚。そういう見えてる魚は結構簡単に食ってきた。

雨貝:エリート2戦目にしてそういう自分の釣りで結果を出したことに驚きました。

藤田:試合中にアジャストできたのがよかったッスね。初日は実は最悪のスタートだったんです。初日の朝はあのワンドのひとつ隣りの別のポンドから始めてたんです。実はプラでネストに完全ロックした4Lb半くらいのを見つけていて、初日15番フライトだったので朝イチはそれを釣りに行った。一番乗りで入ったんですけど、前日に抜かれたのか消えてて。その次のネストも魚がいなくなってた。しかも、その狭い池の中に5艇も入ってきて、もうどうしようっていう最悪のスタートでした。バーニー・シュルツとジョンストン兄弟のどっちかもいましたし、池を繋いでる狭い水路の中はセス・ファイダーがやってた。こんなに大勢入ってくるのかって......。結局、自分はねらってたネストも消えてたのですぐ出て、隣りのポンドに行ったんですが、そしたら今度はそこにGメンがいた(苦笑)。

雨貝:なんでも試合後の反省練習に湖に出たとか。

藤田:収穫がいっぱいありました。まず優勝したカウボーイ(シフエンテスのこと)のエリア、やっぱり魚いましたね。エレキ下ろしてすぐ4パウンダーくらいのが来ましたし、一番デカイので6Lb12ozを釣りました。あの一帯は自分もプリプラで見に行ってて、その時は2Lbくらいまでの小さいのばっかりだったんですが、明らかにバスの量も増えてるし、サイズも大きくなってました。50cmくらいのデカいクラッピーもいるので、最初ライブスコープに映るのはクラッピーかと思ってたんですが、実際に釣ってみるとデカいプリのメスでした。

 いやぁでも試合中はまさかあのディープがそこまで釣れるとは思わなかったですね。試合中、移動してる時にカウボーイも見かけてたんですけど、きっと2Lbしか釣れてないんだろうなぁって思ってました(苦笑)。初日終わった時点でも、カウボーイは最重量じゃなかったので自分は気づかなかった。あの選手自体、自分はまったく知らなかったので。逆に、同じあのディープを釣ってたブランドン・パラニュークが最下位に近かったので、やっぱディープはダメだなと思っちゃってました。もしディープを釣ってたカウボーイが初日20Lb近く釣ってるって初日の時点で気づいてたら、自分も考え方変わってたと思う。

雨貝:エリートの決勝出たことでメンタル的な変化はありました?

藤田:エリアさえ見つけて、ミスらなければ、決勝は行けるんだなとは思いましたね。やっぱりエリアですね。もしこのセミノール戦が開幕戦だったら、オキチョビ戦はもっとイメージ掴めたかもしれないなと。こういうところにネストがあって、その周りにアフターがいて、その手前とか沖の深いとこにプリがいるっていう教科書通りの動き方なんだなぁっていうのが分かった。日本だともっとゴチャゴチャしてて分かりにくいんですが、アメリカは教科書通り。ただ、自分はエリアを知らないので、それが分からない。

 ただ釣り方に関してはアメリカ人選手より自分のほうにアドバンテージあるなってすごく思いますね。今のエリート出場選手の中で日本の最新テクニックを知ってるのはきっと自分だけだと思うんですヨ。日本には、メディアには出てこないローカルごとのテクニックとか結構あって、自分はトップ50だけじゃなくてマスターズにも出てたので、そういうマニアックなテクニックまで知ってる。なので、食わせる技術という部分に関してはアドバンテージあるのかなって。

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